プロローグ
ラムトラック(1500)は、北米市場をメインターゲットにしたフルサイズピックアップゆえか、現在まで日本に正規輸入されたことはありませんが、日本車にはない大迫力のボディと、アクのある個性的なデザインは、北米市場では大変人気のあるモデルです。
かつては「ダッジ」というブランドで販売していたラムトラックは、2009年(2010年モデル)からは「ラム・トラックス」という独立したブランドで販売されることになり、ラムトラック1500は、2019年モデルでフルモデルチェンジし、5世代目となりました。
2世代目から採用された、大きく特徴的なフロントグリルと、小ぶり(に見える)なヘッドライトの押し出し感が強いコンビネーションで、デザインでの人気に火が付き、2000年頃に日本にもたくさんの台数が並行輸入されました。
さて、ラムトラックに限らず、フルサイズピックアップを購入するにあたって、気になるのは燃費ではないでしょうか。大迫力のボディサイズはいかにも燃料を喰いそうに見えますが、本当のところはどうなのか、数多くのラムトラックを取り扱ってきたS-BROSが、最新モデルのラム1500を中心に燃費についてお伝えしたいと思います。
目次
フルサイズピックアップの燃費イメージ
ラムトラックをはじめとするフルサイズピックアップは、その大きなボディサイズから、いかにも燃費が悪そうなイメージを抱きがちです。しかしよく考えてみると、車体の半分近くは荷物を積むための「ベッド(荷台)」です。当然ながら荷物を載せて走ることを想定しているため、空荷の状態では比較的軽いというわけです。
しかも北米は燃料が安めといえども、欧米の環境意識の高まりは日本以上です。つまり北米市場がメインであっても、コンプライアンスの面で燃費性能を無視することはできません。当然ラムトラックも燃費は年々良くなってきており、フルモデルチェンジを行った2019年モデルからは、さらに燃費の良いエンジンが登場しました。
全モデルに305馬力のマイルドハイブリッドエンジンを標準設定!
2019年モデルのラム1500には、eトルクと呼ばれるマイルドハイブリッドシステムを搭載した、3.6L V6エンジンが標準設定され、オプション設定の5.6L V8のHEMIエンジンにも搭載されます。量産ピックアップ初となるマイルドハイブリッド搭載は、北米市場で大好評を博し、ピックアップトラックの本場であるテキサス州では、数々のアワードを受賞しています。
ちなみにマイルドハイブリッドシステムとは、一般的に「ハイブリッドエンジン」とは違い、オルタネーターを進化させたようなもので、ベルト駆動のジェネレーターとバッテリーパックを組み合わせています。このバッテリーパックは、アイドリングストップ状態からエンジンを再始動させたり、発進時に一定時間駆動をアシストしたりするのに使われるほか、減速時に回生ブレーキの電力を貯めるのに使われ、低燃費化に貢献します。
エアロダイナミクスを徹底的に見直して低燃費化!
フルモデルチェンジしたラム1500は、徹底的な風洞実験によってエアロダイナミクスwを大幅に向上させた結果、クラス最高の空力性能を誇っています。空気抵抗が車の走行性能に大きく影響するのは、F1マシンを見れば明らかですよね。他にもエンジンの温度によって開閉して、空気抵抗を低減する「アクティブグリルシャッター」などを装備し、史上最高レベルで空力に優れたピックアップトラックとなっています。
高強度フレームや軽量パーツの採用で軽量化!
ラム1500のシャシーは98%が高強度のスチールでできていますが、より軽量なアルミを使わないのは、剛性と耐久性を犠牲にしないため。またラムトラックは、けん引力も売りにしているため、軽量でも割れやすいアルミを採用しなかったと思われます。しかし前モデルよりキャビンを拡げても100kgの軽量化を果たしています。
燃費から紐解くラムトラックのエンジンスペック
ダッジブランド時代からラムトラックは、フォードのF150とシボレーのシルバラードと競合する関係にある、クライスラー陣営の主力ピックアップトラックでした。北米で最も売れている自動車がフォードF150であることを考えると、このピックアップトラックに対するFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の本気度が想像できます。もちろん搭載するエンジンも本気で進化させてきた、信頼性と革新性能を両立したものになっています。
こちらではフルモデルチェンジした2019年型のラムトラックに用意された、2つのマイルドハイブリッドエンジンに注目してみたいと思います。
3.6L PENTASTAR ® ETORQUE WITH V6エンジンの概要V6エンジン自体は前モデルにも設定されていましたが、パワーテックエンジンと呼ばれるもので、2019年モデルの3.6Lのペンタスターエンジンとは違うDNAを持つエンジンでした。ペンタスターエンジンは2011年にジープブランドから導入が始まった、クライスラーグループが技術の粋を集めて開発した、新設計エンジンです。ちなみに「ペンタスター」というのは、クライスラーの五角形エムブレムが、「★」を表していることに由来しています。クライスラーの象徴となるエンジンになることを願って名付けられたであろう、ペンタスターエンジンは、実際に発売から5年で累計500万基以上を生産し、大ベストセラーとなりました。
そんな名機ペンタスターエンジンは、低速からトルクの立ち上がりがよく、高回転までスムーズに回る、クセのない特性が好評です。これとマイルドハイブリッドと組み合わせたラム1500のV6エンジンは、気筒休止システムやアイドリングストップ機能などを盛り込み、賢い8速ATと相まって、かなり燃費性能が向上しています。
3.6L PENTASTAR ® ETORQUE WITH V6エンジンのスペック
- 形式
- 3.6L V6 DOHC 24バルブ 自然吸気
- 最高出力
- 305ps(224kw)
- 最大トルク
- 27.5kgm (269Nm)
5.7L HEMI ® ETORQUEとV8エンジンの概要
クライスラー伝統のV8エンジン「HEMI」は80年以上前にルーツを持つエンジンで、伝統的にOHV方式を採用する、マッスルカーの定番とも言えるエンジンです。高回転の伸びはありませんが、大排気量向きの高い耐久性が支持され、今でも熱狂的に支持されている名機です。ちなみに「HEMI」というネーミングは、最初の世代のエンジンが半球状の燃焼室を持っていたことに由来しています。世代が進む中で、半球状の燃焼室ではなくなり、今はクライスラーの高性能V8エンジンの代名詞として、その名前を残しています。大排気量エンジンの怒涛のトルクとV8サウンドは譲れないけど、燃費も気になるという方のためのエンジンといえるでしょう。
5.7L HEMI ® ETORQUEとV8エンジンのスペック
- 形式
- 5.7L V型8気筒OHV 16バルブ
- 最高出力
- 395ps(200kW)
- 最大トルク
- 56.7kgm (556Nm)
かつては5L超のHEMIエンジンが主力で、時にはダッジ バイパーと同じ8.3L V10エンジンを搭載した「SRT-10」という500馬力のモデルも存在し、世界最速のピックアップトラックとして、ギネスブックに載っていました。その燃費は聞くのも恐ろしい数字でしょうね・・最新モデルにはSRT-10はラインナップされていません。
装備によって車重は大きく変わる?
ラムトラックのベッド(荷台)には、定番のトノカバーだけでなく、多くのオプションが用意されています。中でも特徴的なのは、「ラムボックス」と名付けられた、ベッドの両サイドに設けられた収納ボックスです。今までベッドを濡らさないようにしたり、荷物を守るにはトノカバーを付けるか、収納ボックスを置くしかありませんでした。しかしこのボディ一体の収納ボックスは、LED照明や電源コンセントを備え、リモコンキーでロックしたり解除できます。ピックアップトラックや軽トラに乗ったことがある方には、地味に魅力的に映るのではないでしょうか。
他にも牽引用ヒッチメンバーや、分割式のマルチファンクションゲートなどを選択すると、数10kg単位で重量は増減します。重量は燃費に直結する要素ですので、自分の用途や便利さに見合う装備か、じっくり考えるべきでしょう。大好きな車なら、あれこれと悩む時間も楽しいものですよね。
エンジンの違いによる燃費をチェック
それではいよいよV6のペンタスターエンジンとV8のHEMIエンジンの燃費をみていきましょう。ちなみにメーカーの発表によると、マイルドハイブリッド化によって燃費は前モデルから10%向上したとのことです。
メーカーの公表値(EPAモード)では、次のようになっています。
- 3.6L V6エンジン(2WD)燃費・・市街地8.0km/L、高速10.2km/L
- 5.7L V8エンジン(2WD)燃費・・市街地7.2km/L、高速9.3km/L
競合するような国産車はありませんが、参考までに車格の近いランドクルーザーの燃費(JC08モード)を例に挙げると、
- トヨタ ランドクルーザー(V8 4.6L)燃費・・6.7km/L
EPAモードはJC08より実際の走行の値に近いといわれ、JC08モードの数値に0.75をかけると、ほぼEPAモードの数値になるといわれています。つまりランクルの燃費をEPAモードにすると・・5.0km/Lということになります。
こうして見ると、OHVの5.7L V8エンジンにしては、ラムトラックはかなり健闘していると言えるのではないでしょうか。
燃費をよくするラムトラックの運転のコツとは
エンジンのマイルドハイブリッド化や、ボディの空力性能の向上をはじめとする様々な改良を受けて、国産SUVと対等以上の燃費を実現した、2019年モデルのラムトラック。もっと燃費をよくする方法はないのでしょうか。
急加速&急減速は禁物!マイルドハイブリッドを活かすアクセルワークを
ラムトラックのマイルドハイブリッドシステムは、発進時にモーターが”アシスト”してくれるものです。あくまでアシストですので、基本的にはエンジンの動力で動いています。つまり、従来の非ハイブリッド車と同じように最も燃料を消費するのは、発進時ということになります。ラムトラックはV6エンジンでも、十分にトルクがありますので、なるべくアクセルはゆっくり踏むことを心がけましょう。
ブレーキをなるべく踏まずに惰性走行することを意識する
ここで勘違いしてはいけないのは、安全のためならブレーキは積極的に使えばいいと思います。意識したいのは、減速する時や停止までの区間での”惰性走行”を利用することです。2トンほどあるラムトラックの車重は、発進時に大きな力を必要としますが、停止するのにも大きな力が必要です。これは逆に言えばアクセルを抜いていても、ある程度は慣性の法則で走り続けてくれるということです。つまり遠めの赤信号で停車する時や、後続車がいない状況での減速で、惰性走行をうまく利用すれば燃料の消費を抑えることができるというわけです。
大径タイヤはカッコいいけど、確実に燃費は悪化する
ラムトラックのようなフルサイズピックアップをハイリフトして、ミッキートンプソン等の大径オフロードタイヤを履かせるバハスタイルに憧れを持つ方も多いと思います。しかしタイヤを大きくすると、バネ下重量が増えて発進時に燃料をたくさん消費するようになってしまいます。また、タイヤを太くしても同様のデメリットがあります。しかしあえてラムトラックを選ぶ方には、これは無粋なアドバイスかもしれませんね。
ベッド(荷台)には必要な時以外は何も載せない
ラムトラックのベッドにレジャーグッズやバイクを載せて、充実した休日を夢見る方も多いでしょう。フルサイズピックアップの大きなベッドは、驚くほど物を乗せることができ、小型のオフロードバイクなら、がんばれば3台くらい積めてしまいます。荷物を下ろすのが面倒で、来週も使うからと荷物を積みっぱなしはいけません。単純に車重が重くなってしまい、結果的に燃費が悪くなります。余計な荷物はなるべく降ろして、車体を軽くしたほうが、走りも軽快になって気持ちよくドライブできますよ。
まとめ
アメ車好きでなくとも、重厚で大迫力のボディが目を引くラムトラックは、日本車にはない魅力がたくさん詰まっています。大柄なアメ車のネックになりがちな燃費も、今回のフルモデルチェンジで得た、マイルドハイブリッドシステムのおかげで向上しました。あとはちょっとした燃費向上のコツを実践すれば、さらに低燃費を実現できるでしょう。
あとラムトラック購入に必要なのは、大きな車体を収めることができる駐車場だけです!この記事があなたのフルサイズピックアップ生活スタートのきっかけになれば、アメ車に魅入られた仲間として、この上ない喜びです。